自然農法(わら一本の革命)#42

自然農法(わら一本の革命)#42

スペイン人が悪い草を持ってきた
「その海岸から20分ほどの、レッドウッドの森という所に行きました。そこは、日本でいうと数ヵ村くらいの面積で、原始林みたいに、二百年、三百年の木が林立している。日本で言うと、杉、ヒノキ、というような大木で、七,八十メートルあるんです。カリフォルニアには、ところどころに、氷河がきた時に、まわりは全滅してしまったのに、とり残された“氷河の森”があって、樹齢二千年、高さ百三十メートルなんて巨木があるところがあるんです。そこに八十歳ほどの大酋長がおりまして、「あんたは、この森の守り神か」と言ったら、「そうだ、それはいいことを言ってくれた」と、えらい喜びまして、ずっと案内してくれて、いろんなことを学ぶことができました。(帰国後、この老人から、三百年生のレッドウッドの木の梢で造った手造りコップを贈られた)『昔から、ここはこうなのか』と聞くと、『そうだ』と言う、二百年前の森がそのまま保存されていて、国立公園になっている。幅4メートルくらいの道があって、ロープが引いてあるだけで、ほかに何も設備はない。ベンチひとつ置いてない。車で十分の、外は褐色の砂漠だけども、そこはパッと違って、うっそうとした大森林になっている。下草の三分の一くらいは、日本の草みたいなものです。皆さんも、それだけ聞くと、おかしいと思うでしょう。砂漠の中に鎮守の森のようなものがあって、日本の草が生えているなんて。昔からここはこうだった、と言うから、「カリフォルニアの昔はどうだったのか。いつから、狂ったはずだ」と言いましたら、彼は、スペインが来て牧畜をやった時から狂ったような感じがする、というようなことを言う。いろんな所で調べたり、あとから聞いたりしました結論は、そのフォックステールはスペイン人が持ってきた牧草の中に入っていたのではないか。それがカリフォルニア全体を支配している、と自分は見たわけなんです。これが、なぜ支配するかというと、フォックステールは、6月頃に実が入って熟すんですが、日本ならば、一つの草が成熟して枯れれば次の草が生えるはずなのに、これが緻密に生えているために、他の草がよう生えない。そのために、野山が一面に褐色になってしまう。その実が、トゲがあって性質(たち)が悪い。着物に突き刺さると抜けなくて、中へどんどん入ってしまう。犬やネコが草原を歩いて刺されたら、肉まで入ってしまい、手術しないと抜けない、と言うんです。そういうものが鳥や獣について拡がったために、褐色の草原になってしまう。そうすると、三十度の温度があれば、当然、反射熱で四十度に上がってしまう。こうして気温が上がって、熱の砂漠になってしまう。結論として、自分の推察は、スペイン人が草を持ってきた時からカリフォルニアの草が変わってしまった。雑草がなくなってきた。それがアメリカの気温を変え、それが砂漠化のスタートになったんではないか。そういう感じがしたんです。そんな気持ちを持ちながら、数日後州政府のあるサクラメントへ、環境庁の長官に呼ばれ、三十人ほどの役人に話をしに行きました。・・・『自分は、カリフォルニアに来て、いろいろ疑問を持った。というのは、砂漠でありながら、日本の雑草みたいな草がある。いったい、カリフォルニアの母岩はどうなっているんだ』・・・すると、彼女は、『実は私はもともと鉱物の専門学者だった』と、分厚い本を持ってきって示すんです。その話が、日本列島とサンフランシスコ当たりの母岩が一緒だというんです。また、北海道の島々と、カナダの南の方の母岩が一緒。シベリアとアラスカ、東南アジアとメキシコ附近の石もまた一緒だと言うんです。全く相似的に分布している。そして、昔、太平洋は大陸だったという説もあり、山が爆発した時に、溶岩が東西に流れて、そのようになったのではないか、と言うんです。日本には富士山がある。カリフォルニアにも同じくらいの高さの火山が、ちょうど同じような所にある(シャスタ山、4317メートル)。富士山があって、雑草が一緒で、石(母岩)が一緒だったら、太古は一緒だったかも知れない。」
大陸移動説を、植物の分布や母岩から、福岡氏は証明したことになる。日本とカリフォルニアが太古の昔繋がっていた。その証拠に岩石が同じであるというのは興味のあることである。木庵の聞いた話では、白人がカリフォルニアに入植する前、インディアンが相当いたという。木庵の疑問とするところは、なぜ樹木がほとんどない砂漠のような所にインデアンが住んでおれたのかということであった。福岡氏の推論でそのなぞが解けた。インディアンが多く住んでいた時代には樹木が生い茂り、夏場といえども山々が褐色になることはなかった。そうだとすると動物も多く生息していてだろうし、野草なども豊富で、人間が住むのに適した所であったということになる。木庵>
雨は下から降る
「・・・『自分は、サンフランシスコから、ここへ来るまでの景色を目を皿のようにして見ていたけれど、サンフランシスコをちょっと離れるとすぐに褐色が始まる、砂漠化してゆく過程がよく現われている。そして、サクラメントの町へ入ったとたん、また緑の木が一面に生えている。草花が植えられていたりして、緑になっている。こういう緑を見ると、全く砂漠の中のオアシスという感じがする。サクラメントも美しい町だが、しかしこれは作られた人工的な緑だという感じがする。ところで、『サクラメントは昔から、こういうふうな緑の所であったのか』・・『いや、そうではなかったかも知れない。その証拠に、サクラメントには、こんな家が2,3軒ある』という話が出た。あとで、その家へ案内してもらいましたが、二階へ直接入るような階段がある。洪水で、水が引かないから、直接、上へ入ったという。あの砂漠の中のサクラメントの町が、二百年,三百年前にそんなに水が出ていたということが、証拠として残っているわけなんです。雨が降らないのが大陸的気候だ、と盛んに言われるんです。気象学から言えば、雨は上から降るかも知れないけれど、哲学的に言えば、雨は下から降るもんだと自分は思う、と言ったんです。下が緑になれば、そこが水蒸気がわいて雲がわいて、雨が降るんだ、と。」
<ただ言っておくが、ロスあたりで、雨季には日本の梅雨のように相当の雨が降ることがある。水はけが悪い所だと床下浸水ぐらいはよくある。福岡氏の述べているのはロスではなくサクラメントで、サクラメントの方が断然降水量が多い。以前の記述から推論すると、二百年,三百年前は今より降水量が相当多かったことが分かる。それは当時、カリフォルニアは夏といえども山々に樹木や雑草が多く茂って、水を保水し、また蒸発させて、雲を作っていたからであろう。木庵>
土がやせる農法
「現代の科学者に言わせますと、牧畜をやれば土地は肥えるはずだ、と言います。実際はどこでもやせている。オーストラリアの青年の話を聞きましても、インドの青年の話を聞きましても、やっぱり、畜産をやれば土地がやせる、というのが自分の結論なんです。アメリカ大陸でも、初めスペイン人が畜産をやって、土が肥えるはずだが、やせさせてしまっている。牧畜をやって、牛の糞尿が全部土に返っておれば、やせるはずはないように見えますが、実際はやせてしまっている。雑草が単純化するからです。そこへもってきて、最近は、近代農法をやって、さらにやせてしまっている、という悪循環がおきている。皆さん、日本の牛や豚のエサが日本の草だと思ったら大間違いで、何百頭も飼っている今の牧場の牛の草は、アメリカの草なんです。その草を持ち出しているから、アメリカの大地はやせてくる。アメリカの畜産農家は裕福だろうと思っていたら、案外そうじゃない。やせてしまった土地に、石油で作ったものを投下して作った草を売っているにすぎない。足許の土は、ますますやせる一方である、金儲けをしているが、土地はやせているから、根本的には、マイナスの農業をやっている一方である。」
つづく