自然農法(わら一本の革命)#30

自然農法(わら一本の革命)#30
海の汚染は化学肥料が原因だ
「魚の汚染や、海の汚染の問題は・・・一部の人の提案や提唱で、片がつくのではない。全体的な問題だということを、自分は言いたい、たとえば、瀬戸内海の魚が汚染されてきておいしくなくなってしまったというのは事実です。瀬戸内海の魚ぐらい、おいしい小魚はなかったのが、現在では、太平洋の魚の方がもっとおいしいという。・・・化学肥料の主成肥料である、硫安とか尿素とか、70%までの濃硫酸、こういうふうな、リン酸肥料やなんかをさかんい使っていますけど、これの、田畑に吸収されてしまう分量というのは、ごくわずかである。ほとんど大部分が谷川に流れ込み、谷川から川へ流れ、そして海に、つまり、瀬戸内海にそそいでいるわけです。・・・この栄養分が過大になって、赤潮が発生していることも確かです。・・・どこかの大学の先生は、四国のどてっ腹に穴をあけて、太平洋の水を瀬戸内海に注入し、海流を流すことによって、瀬戸内海の汚染を浄化できるんじゃないかというような対策を立てたりする。・・・ところが、こういうふうな次元では本当の解決にはならないんです。いわゆる汚染の根本原因というものは、人間のあらゆる行動、知恵から出発して、それが価値あることのように思っているところにあるんです。結局、その価値観という、人間の根本的な頭が改革されない限りは止まらない、まあ、何をやっても、やればやるほど悪くなるというのが実状だと思うんです。対策を立てれば立てるほど、かえって問題は、悪質化し、内攻していく。」
<人間の知恵というものは、自然の知恵からすると偏狭ということになる。やはり、自然の知恵に頼るしかないのだろう。木庵>
果物はさんざんな目にあっている
「消費者は、形の整った、少しでもおいしい、少しでも甘味の多いものを要求する。・・・たとえば、夏、8月に、温州ミカンを出しますね。昨年あたりは、ばかみたいに、10倍、20倍の高価がついているわけです。だから、今年あたりは、ビニールハウスの中で、冬の間に石油をたいて・・・みかんのカラーリング(色づけ)というのをやり始めた、これをやると、一週間ばかり色づきが早くなります。10月の10日前に売るのと、10日後に売るのと、10日か1週間の差によって、やっぱり値段というものが、倍になったリ、半分になったりする。そのために、一日でも早く色をつけたくて、着色促進剤をかけ、さらに最後に、密室に入れてガス処置がとられる。さらに、早く出すためには、甘味が足りませんので、早く唐度を増そうとして、人工甘味剤が使われる。まあ、ふつう、人口甘味っていえば、一般には禁止されているはずなんですが、ミカンに散布する人工甘味は別に禁止されていないようです。これは、農薬のうちに入るか入らないかも問題だと思うんですが、とにかく、人工甘味剤がかけられる。こういうふうにしておいて、さらに今度は、共同選果場へもっていって、大小を選別するために、一つ一つの果物が、何百メートルという距離を、ころころと、ころがされていく。そのうち、非常に打撲傷ができてくる。大きな選果場になればなるほど、一つの果物が選別中に、長い間ころげて、汚れや打撲傷ができますから、その途中でまた、防腐剤がかけられ、着色剤がふきつけられるわけです。その前にまた、水で洗浄される過程がある。果物はさんざんな目にあいます。そして最後に、ワックスが仕上げといって、パラフィンの溶液がふきつけられて、表面にロウがひかれる。食パンなどには流動パラフィンというのは禁止されているはずですが、こういう果物類につける流動パラフィンはさしつかえあるのか、ないのか、知りませんが、やっぱり、そのままにされている。これも、何のためかというと、店頭に置かれて、ビニールの袋に入れるのと同じように、鮮度を保ち、二日も三日も、新しいとりたての果物のように見えるから、その見かけのために、パラフィンで光らせるわけです。まあ、ミカン一つとりあげてみても、こういうような処置がとられているんです。・・・今から40年も前に、アメリカではもう、サンキストのオレンジとかレモンとかいうものには、こういう処理がされていたんですが、それが日本に入ってきたときにですね、私はこういうことを実施することに大反対したわけです。何かをなすことによって、世の中がよくなるんでなくて、むしろ、しないように、しないようにすることが大事なことだというようなことを言ったんですが、結局、そういう意見などは聞き入れられず、やっぱり実施されてしまった。・・・店屋の前で見ていると、野菜の上にでもしょっちゅう水をうっていますが、こういう見せかけの鮮度を保つようなことをすればするほど、その植物というものは、生命活動が活発になって、自己消費をいたしますから、自分の肉を自分で食うことになる、タコが自分の足を食うようなもので、結局、内容が乏しくなってきて、栄養もなくなるし、味も悪くなるというのが実情なんです。」
<結局消費者がうわべだけの美しさを好むものなので、無駄な、人間に害になることをしていることになる。福岡氏の言う「しないように、しないようにする」ことが大事なこともありうる。我々の人生において無駄なことが多くて、案外何もしないことが人生をエンジョイする生き方なのかもしれない。木庵>
自然に作られたものの味
「ミカン山の中ではありますが、クローバーやいろんな野草、雑草の中にはえている野菜、実はミカン山の中には、いろんな野菜の種がばら播きしてありまして、草と野菜とが混生している状態です。野菜も、大根、かぶ、にんじん、たか菜、しゃくし菜、からし菜、豆類というようなものが、みな共生して混在しているような状態なんですけど、そこの野草化した野菜と、一般の農家の庭先や、田で肥料をやって作った野菜と、どちらがうまいかというような話が出てきたわけですけれど、それも、比較しますと、もう、全く香りとか味とかが違ったもので、野生化したものは強烈で、コクのある味だというようなことを確認したわけなんです。・・・人工的に改良されてきた野菜よりも、野生の草、山菜というものの方が、現在作られている野菜より価値があると言えます。・・・このごろの子供は、非常に疳(かん)が強いということを言いますが、そういうふうな、なにかこう、いらいらした、せっかちな気分をしずめるには、ナズナを食べるのが一番だと言います。このナズナを食べたり、虫ですね、柳の虫とか、木の虫を食べると疳(かん)の虫にきくといって、昔の子供はよく食べさせられたものでした。昆虫類なんていうのもだいたい、食べられない昆虫はいないんですよ。昆虫は食べられるもするし、薬にもなる。これは、話がちょっと余談になりますけれど、私は戦争中に試験場に勤めておりましたが、軍部の方の注文で、南方へ行ったらどんなものが食べられるか、それを書きだしてくれというので、調べたことがあったんです。その時に、調べれば調べるほど、どんなものでも役立つということを知って驚いたんです。昔の文献なんかを集めてみますとね、まあ、たとえば、シラミとかノミとかは、誰も役に立つように思わない。ところが、シラミはすりつぶして麦飯と一緒に食うと、てんかんの薬になるとか、ノミはしもやけの薬になるとか、便所のうじ虫が何だとか、お蚕さんなんかでも、これほどの珍味はない、なんていうのが出てくるんです。食べ方によって蚕の幼虫の方が食べられるということは、誰でもちょっと考えれるけれど、羽のはえている蛾のほうまで食べられるとは、自分も知らなかったんですが、蛾なんかもですね、つきまぜて羽のりん粉を落として食べるとうまい。そして、幼虫でも、生きてる幼虫だけならいいんですけど、病気にかかった(蚕には白狂病という病気がありますが)やつが特に珍味だなんて書いてあるんですよね。だから味からいっても、薬になるということからいってもね、驚くべきことが、実はあるんです。」
<木庵の庭に毎年大根の種を採って植えているのだが、近頃、何世代も受け継がれた大根なのか、野生の大根が庭に入ってきたのか分らなくなっている。近くの野山には大根の野生化したものが多く自生しているからである。ところで木庵は、大根の根を食べるのではなく葉っぱを食べるために植えているというか、自然に勝手に芽が出てくる。大根の葉っぱはでんでんむしやナメクジにやられない。彼たちは大根の葉っぱの辛さが嫌とみえて襲ってこないのである。昆虫や昆虫の幼虫は次世代の人類の大切なたんぱく質であるというようなことを聞いたことがある。栄養満点なのである。木庵はイナゴを焼いて食べたことがあるが結構いけた。木庵>
つづく