自然農法(わら一本の革命)#8(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #4)

自然農法(わら一本の革命)#8(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #4)
4)修理
  アルハンドラを女傑と呼ばざるをえないのは、これから説明する修理に対する優秀な推測力と直す技術力が卓越しているからである。彼女は自動車の修理を専門とするところで働いていたわけではない。ごく普通の子供を持つ母親であり、中南米に送金を専門とする銀行の事務員であるだけである。ただ前の主人は自動車を出張して直す仕事をしていた。この主人の働いている様子を観察したり、時には手伝っていたのだろう。彼女に言わせれば、「自動車でも何でも故障には必ず原因がある。その原因を探し、直せばよい」という。原理としては簡単だがその原因を探すことが難しい。
   オークションで車を安く買ったのはよいが、5つの欠陥を発見した。?右前方ライトの遠距離用ライトがつかない。?前述したようにステヤリングが不備で、オイルが少ないかポンプが故障しているかどちらか。?窓の汚れを取り除く噴射器の水を貯めるタンクと水を送るチュープが接続しているところが壊れている。?運転席側のドアの鍵がドアの中の方に入っていて使用不可能なため、乗客側ドアから鍵を開け、運転者側の内側についているドアのノブを上げてドアが開く。この車は4ドアであるが、運転側の後ろドアは開閉さえ出来ない。?ラジオがはじめからなかった。この中で一番感心したのは4番目である。順番に説明する。故障を直すためにホンダシビックLXの構造が詳しく書いてある本を購入(22ドル)してから、修理にとりかかった。
? ライトは結局接触がよくないだけであって、すぐにつくようになった。?普通なら専門家に直してもらうと、即座にポンプ、チューブともに新しいのに取替え、オイルを入れるというものであろう。これだけで、400ドルは請求されるであろう。彼女の観察では、一応ハンドルは動く、だからポンプではない。ということはオイルに問題がある。オイルの量は十分ある。次の推測はオイルが汚れているということになる。オイルを入れ替え、汚れた箇所を綺麗にすればよい。それを実行した。見事、ハンドルの動きがスムーズになった。実はこの二日後にまた以前ほどではないが低速のとき重たくなった。完全に綺麗になっていなかったのである。そこでガソリンで洗浄することとなった。成功したがまた少し問題があり、やはりポンプを入れ替えなければいけないかということになったが、ポンプは250ドルするので、もう一度洗浄して様子をみることになった。最後に洗浄してから3日たっているが今のところ問題はない。成功したのだろう。?プラスチックタンクだが、買うと相当する。そこで、廃車が山積みに置いてある中古部品を売る店に行った。このような店は私のアパートの近くに多くある。中古部品だけでなく新しい部品も売っている。雑然と廃車が置いてあるようだが、分類されているのが分かった。一人の従業員が廃車のボンネットの中の部品を外し、それぞれの部品を所定のところに移動させていた。客は自分の必要とする車種のある部品が欲しいといえば、所定の場所から欲しいものを手に入れることが出来る。また、廃車の中から部品を見つけ、それを係りの人に取り外してもらうことも出来る。この店では外すのを従業員に頼むのであるが、以前アルハンドラと行った廃車置場では、客が自由に好きな部品を外し、それを買うことができた。この店にやってきた理由はプラスチックのタンクを探すことと、?のドアを直すためである。同じ車種があればそのドアの部品を買い、直してしまおうという考えである。結局この店ではタンクは見つからず、違う店で35ドルで買った。ちゃちなタンクだが、小さいポンプもついている。新しいのを買えば80ドルはするであろう。新品であろうが中古であろうが、機能は一緒である。中古で十分である。もともと、廃車をただ同然で手に入れて、このような部品でも35ドルで売るとは廃車解体業も儲かる商売である。この部品は?の部品の横に取り付けるのだが、狭い隙間からタンクを入れるのに結構苦労していた。
      ?最大の難関はドアである。運転側のドアの鍵を差し込む部分がドアの内部に沈没していていたが、すぐにその部分を発見し、所定の所に固定した。問題はこのドアの後ろのドアの開閉を正常にすることである。アルハンドラはそれを解決するために、反対側の後方のドアの中を開け、構造を研究した。もちろん本に記入してあるが、それでも解決しなかったためである。奮闘するがどうしても解決できない。仕方なく中古販売店の横の駐車場で直しだした。彼女の作戦はそこで直しながら、分からないところを従業員に尋ねるというものである。従業員に全て任せれば60ドルで直すというが、アルハンドラは金の節約のため自分で試み、分からないところを尋ねるという作戦にでた。ここはアメリカ、レディーファーストの国。女性に優しい従業員は彼女の質問に答えてくれるし、時に
は車まできてチックまでしてくれる。店主は迷惑な顔をしているが、部品を買ってくれるかもしれないので、無下に対応するわけにいかない。店主の目を盗んで若い従業員が本格的にドアを直しにかかった。アルハンドラはどこに問題があるかを真剣に尋ねたり観察している。結局成功しなかった。ドアを専門に直している人間でも成功しなかったのである。彼に完全に任せば、部品を取り替えるだろう。店が閉まる時間になり、アルハンドラはアパートに帰って直すこととなった。専門家の作業の動き、それに言った言葉から、アルハンドラはある考えが浮かんだようである。アパートの横の道路で直しにかかった。ようやく一つの原因を見つけた。元々ねじのかけかたが悪かったのを発見したのである。メカ音痴の木庵は正確に説明できないが、一箇所ねじをつける方向が逆であったという。もう一つは、ある部品が曲がっていた。それをまっすぐにして取り付ければよいことが分かった。明かりを彼女が作業をしている箇所に当てながら、木庵は徐々に解決の方向に行くプロセスを観察していた。時には原因を突き詰めたことを説明してくれるが、なんとなく分かるが細かいことは分からない。彼女の頭の中で作動していることと私の頭の中とは全然違う。ドアの故障→修理という因果関係がつかめない。木庵なら一生かかっても彼女のような作業は出来ないと思った。もはや私の能力を超えた世界。道具の取り扱い方、狭い場所でのねじの取り付け、私にはできない。気が短く、不器用な木庵の世界ではない。尊敬を通り越して、「貴女は天才だ」と連発していた。

?ラジオは設置すればよいだけだが、どうも電気がきていないらしい。ラジオは古いのがあるのであとは電気が来るようにすればよいだけである。次の水曜日に何とかしてくれるはずである。
  ところで、オークションで買ったときから分かっていたバンパーの壊れ、新しいのに取り替えた。取替え作業に少してこずり、彼女の知り合いが助けてくれた。新しいバンパーは新しいもので70ドルした。しかし微妙にサイズが違っていたり、ボルトの設置場所も違っているなどの問題があったが、何とか解決した。
  
   木庵の古い車は後ろだけがへこんでいるが、車として十分乗れる。アルハンドラは私の新しい車を直しながらも古い車の外観も何とか見栄えのよいようにしてしまった。古い車はアルハンドラにただであげた。この車は次男が使うことになった。バンパー取り付けを手伝った人は、この車を「750ドルで買いたい」と言ったという。エンジンを取り替えた店の主人も言っていた、「あの車は今でも1000ドルの価値がある」と。木庵は、「貴女は車が欲しいから一生懸命に働いたのだろう」と皮肉を言ったが、「たとえ車をくれなくても、私はあなたのために働きます」という返事であった。確かに彼女は私のテナントの車の故障も、無料で直している。日本の言葉で言うと「善根を積んでいる」ということになる。他人のために尽くすことが結局自分のためになり、それが子供の幸せにつながると信じているようだ。
  
   はっきり言って、木庵にとって、このような安い車を買う必要はない。もっと高い車を購入出来る。しかし、テナントと同じような生活水準で生きることは、アパート経営で大事なことであると思っている。多くのアパート経営者はアパートとは別の所に住んで、テナントを一段高いところから見ている。そして、法律に則り、毎年一回冷厳にも家賃を上げ、家賃を払わなければすぐに追い出す。テナントにとって家主は怖く嫌な存在であり、時には敵になる。何か不都合があれば訴えてやるという気持ちがある。ましてや私は日本人である。人種の違いから、不都合があればより攻撃してくる。だから木庵は彼等の仲間であり、彼等の親代わりのような心情を示す。アパートを購入して2,3年間ぐらいの間は、テナントは木庵を警戒して、嫌がらせをすることがあった。ところが近頃、木庵の心情が分かるようになったのか、家族付き合いが出来るようになった。ただ、私はやさしすぎるからか、それに甘えて、またつけこんで、家賃の支払いを遅れるテナントもいくらかいる。ところがアルハンドラをハンディーウーマン、それにマネージャーにしてから、家賃の滞納も少なくなった。同じ人種同士の言うことはよくきくものである。
つづく