自然農法(わら一本の革命)#7(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #3)

自然農法(わら一本の革命)#7(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #3)
   次の日、相手側保険会社から車体の被害状況をチェックする係の人がやって来た。車の損傷状況を写真におさめていた。マイレージまで記録に残していた。ボディーショップでの修理に関する見積もりをみせながら、「直すと3800ドルかかるらしいです」と言うと、「このボディーショップ知っているが、もっとかかります」ときた。この段階でも木庵は保険会社のたくらみが理解できていなかった。というのは、修理代が多くかかるということは賠償金が増えると単純に考えたからである。この人、最後に言った。「この車は廃車処分ですな」。この廃車処分という言葉に意味があることが後でわかった。つまり、修理代やレンタカー代を支払うより、車の市場価値を調べて、その値段を補償した方が保険会社にとって安くつくということである。廃車処分にすれば修理代をだす必要がないので、「修理代は高くつく」と適当なことを言っていたのである。次の日、木庵の車がブルーブック(車種、年代、マイレージから実際に市場で売られている価格が書かれている冊子)からすると、いくらで売れるかを見積もり、2800ドルを補償すると電話で伝えてきた。5000ドルくらいの補償を期待していた木庵は失望した。しかし、そのようなものだろうと思い直し、「それでよい」と伝えた。ところがアルハンドラは「その条件で合意することはよくない」と言いだした。そして、保険会社に合意しないことを電話した。その後、書類が送られてきたが、そこにはブルーブックのコピーと、「もし保険会社の条件に満足しない場合は、ブルーブック以上の価値があることを証明する必要がある」というようなことが書かれていた。そういえば、木庵の車は1年前、エンジンを取り替えている。その費用は1200ドルであった。そこでその領収書をファックスで保険会社に送った。ところが、送った次の日2800ドルのチェックが送られてきた。こちらの抗議を無視したためか、領収書を係りの人がまだ見てない段階で、保険会社の方針通りに処理したのかのどちらかである。「チックはまだ現金にしないで、私がまだ交渉するから」と、アルハンドラのサジェッションがあった。

    ということで、保険会社との交渉はまだ続いている。昨日は土曜日、今日は日曜日で、月曜日にまた交渉をしてくれるはずだ。
 
3) 車の購入
   保険会社が最低2800ドルを補償してくれることが分かった段階で、車の購入を実行した。これもアルハンドラの入れ知恵で、オークションで買うことにした。駐車違反をしておりながら罰金を払わなかったり、登録料金を払わない車が警察に没収されたものをオークションにかけられる。そのようなものがあることは知っていたが、実際に会場に行って購入するのは初めてである。私のアパートの近くに3箇所オークション会場があるという。アルハンドラは一週間の春の休暇があり、私と一緒にオークションに参加してくれるという。路上で買うより、もちろんディーラーより買うより格安の車が手に入るという。火曜日に一つの会場で実施されることを、アルハンドラはインターネットで調べ、出かけた。

朝8時からの開場。彼女の話では、安くオークションで手に入れる奥の手があるという。それは燃料タンクに水を注ぐという。そうするとエンジンの調子がよくないとバイヤーは判断し、安く競り勝つという。蛇の道は蛇である。道徳的には許されないが、これもオークションの駆け引きと考え、彼女の裁量に任せることにした。8時20分頃会場に到達すると、もう多くの人がたむろしていた。受付で免許証を見せ、番号札を受け取った。ところが入場に際して、財布以外は持ち込みを禁じだという。飲み物さえ禁止。なるほど、アルハンドラのようなことを誰もがするので、当局の防止策であるのだろう。以前は、オークション前に車のボンネットを開けたり、ドアを開けて車内を見ることができたというが、今回は外側だけで判断することになっていた。これではエンジンの状態や、どれだけ車が走ったかさえ分からない。外観はよいがエンジンや他の部分が悪い状態で買うことだってありうる。ということは、ギャンブル性が高いということになる。

当日オークションにかけられる車のリストが書かれた紙を受け付けで渡されていた。車種、年代、修理が必要か必要でないかが記入さえていた。一番新しいので2000年というから相当のポンコツ車のオークションである。全部で120台ほどであった。多くの人々がもう車のチェックをしている。「今不景気だから、きっと安く手に入るわ」とアルハンドラは囁いた。9時からオークションがスタート。車の上に見張り台のようなものが置かれたところに二人の警察官が乗っている。一人の警察官が切り出した。オークションをする車の上に標識が設置され、その車の周りに人々が集まった。警察官が最初の額を設定し、どんどん値段が上昇する。買いたい人は番号札を上げる。そして最後の段階で5秒の間に番号札を新しく挙げなければ最後に挙げた人が買うというコメントがあった。誰も挙げなければ、そこで決着となる。購入者は見張り台の上にいるもう一人の警察官に200ドル前金を払うことになる。後買うことを止めると心変わりした人はこの前金は返ってこないことになる。流れ作業のようにどんどん進んでいく。安い値段のものから始まり、高い物へと移動していく。50ドルで競り落とされるのもあった。50台目ぐらいになっても500ドルを越さない。1995年物で外観もよいものでも、500ドルを越さない。アルハンドラの予想が当たり、不景気の影響のため、安く競り落とされているようである。

    私が狙っているのは、トヨタ、ホンダ、ニッサンの96年から2000年にかけてのものである。オークションでも日本車は評判がよい。ようやく1500ドル代のものが出だしてきた。最終的に私は2000年ホンダシビックに絞った。バンパーが壊れているが、外観はそれほど悪くない。車の中もそれほど悪くなさそうである。この車の番になった。緊張感が走る。番号札を挙げるのはアルハンドラである。あらかじめアルハンドラには2000ドルまでなら買うという指示を出した。やはりよい車には競争が激しい。数人が札を挙げてどんどん値が上がっていく。1500ドルを越した。1900ドル、1950ドル、流石に脱落者が続出していった。最後に残るのは私とちょっと金持ちそうな中年の人だけである。実は私は4000ドル現金を持ってきている。強気である。ついに、2000ドルで私が競り勝った。200ドル収めようとすると、競争相手の人が、「私は2025ドルで落とした」と警察官に抗議してきた。しかし後の祭り。しっかりとアルハンドラが落としたことを警察官は見ていたので、私が買う権利を得た。その後オフスで現金を払い、午後3時にようやく車が手に入った。係りの人の昼食時間は休憩という悠長な作業である。車の登録をするため、近くのDMV(Department of Motor Vehicles)のオフスに直行した。ここでも、長く待たされた上、登録費として420ドル支払わされた。税金である。買った値段によって税金の額が違ってくる。路上で買ったような場合、たとえ2000ドルで買っても、500ドルで買ったと申請すると500ドル二対する税金を払うことになる(この額だと150ドルぐらいの税金ですむだろう)。ところがオークションでの購入では書類に2000ドルとしっかり書いてあるので、ごまかせない。420ドルとは高いが仕方がない。金を払ってもまだ終了していない。スモッグテストを合格しなければならない。次にアルハンドラが知っている検査所に行った。
すると、オークションで購入したような車はスモッグテストに通らないことが多いという。バッテリーのパワーを測定すると弱い。フリーウェーを走って、パワーをアップしなければならないない。エンジンそのものの調子は抜群によい。ただ、低速のときハンドルが硬い。これはパワーステヤリング(?)のオイルが切れているか、この部分のポンプが故障しているためだという。この程度、アルハンドラは修理出来るという。ドライブのあとまた検査場に行った。それでもまだ通らない。通すためには、色々なところをチェック修理しなければいけないという。そのためには日数もかかる。「少し大目に金を払うと通してやる」という。結局100ドル支払い、スモックチェックをパスした書類を携え、もう一度DMVに行った。5時半に閉まると聞いていたが5時25分に着いた。ところガセキュリティーがもう「終った」という。DMVの外の道路に駐車して、アルハンドラはオフスに直接進入を試みた。オフスの中には多くの人がまだ手続きをしている。彼女は先ほどの阻止されたセキュリティーではない人と交渉したが、駄目であった。セキュリティーの話では、5分の遅れのため中に入れなかったという。仮の運転許可証をもらっているので運転は可能である。結局、二日後バンパープレートを手に入れ、保険も古い車から新しい車にスイッチして完全な合法車として運転することができるようになった。
つづく