自然農法(わら一本の革命)#6(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #2)

自然農法(わら一本の革命)#6(特別編、女傑と安上がり人生の醍醐味 #2)
保険会社への交渉を早く手をうったことに対して、「あんたはお人よしだ。このような人身事故の場合1万ドル以上は賠償金が下りたはすだ。私に任してくれればもっと上手く交渉したのに」と言ったある日系人がいた。そのようなものかと思ったが、彼の考えはアメリカでは歓迎されないようである。「賠償金が満足すればそれでよい。保険会社から誰もが多くの金を搾り取ろうとするから保険金が上がるのであり、木庵ぐらいのところで妥協するのが正しいやり方である」というのが、私のつきあっている良識的なアメリカ人の反応であった。
   4つ目の事故は、相手側の車が止まった状態から急発車し、それにつられて私も発車したが、また急に止まったため衝突した。低速であったのでほんの少し相手のバンパーを傷つけただけであった。相手側はフランス人でレンタカーを借りていた。ここでも保険証、免許証(相手は国際免許証)の交換をしたが相手がフランス人なので、少しコミニケーションが難しかっただけで、あとは保険金の支払いが上がるということもなかった。
   さてこれから今回の事故についての事故後の顛末を書いていく。

2) 保険会社との交渉
   証人が警察官であったことによって、加害者の保険会社との連絡ができない不都合が起きた。加害者の情報を警察官が全て持っていたためである。ただ事件のIDナンバー、ハイウエーパトロールの電話番号を教えてもらってはいた。私の保険会社が「ハイウエーパトロールに連絡するように」という指示は受けていた。保険会社に電話すると、私の保険は私の車をカバーしてないので加害者が私の車に対する補償をするということであった。ただ、私がむち打ちをしている可能性があるので、カイロでの治療として1000ドルまでは補償すると約束してくれた。ハイウエーパトロールにも連絡してくれることとなった。私の保険会社の話では「警察の仕事の早さにもよるが、約一ヵ月以内に加害者の保険会社から連絡がある」という。もし、警察官を介することがなければ、すぐに対応できたのに・・・。
   さて、ここでようやく傑女の登場である。「木庵さん、あなた、バカね。なぜ事故のあと、相手のインフォーメーションをもらわなかったの」、「だって、警察官が全て書類に書いて、後で警察に連絡しなさいというものだから」、「それがだめなのよ。そういうときでも、相手のインフォーメーションをもらわないと」。
   話を続けるために、まず。女傑、アルハンドラさんのことを少し説明しておこう。彼女はメキシコ生まれ、12歳ごろまでメキシコで育ち、アメリカに移住した完全なバイリンガルの女性である。結婚歴は二度。最初の主人の間に2人(3人かな)の子供があり、それも14歳(16歳かな)で最初の子どもを生んでいる。長男は、「ピストルが暴発して死んだ」と言っているが、ギャングがらみの抗争で死んだのはないかと見ている。二番目の主人の間に3人の男の子がいる。この子どもたちと私のアパートに住んでいる。二番目の主人とは離婚しているが、正式な離婚ではない。子どもたちのステータスの関係で書類上は結婚していることになっている。しかし、この主人のことをプレビアスハズバンド(前の夫)と呼んでいる。彼女の母親は近くに家があり、アルハンドより若い主人と一緒に住んでいる。このあたりは日本の人には理解できないところであろう。ようするに若い男はメキシコからやってきて、アメリカで合法的に滞在するためアルハンドラの母親と結婚しているというわけである。アルハンドラはメキシコにいた頃は母親に育てられたのではなく彼女の祖父母に育てられたという。母親はアメリカ滞在であったからだ。だから母親のことを姉のように思っているという。ロスで高校を卒業している。不法滞在で学校に通っていたようである。アメリカという所は面白い、不法滞在でも子どもは学校に通える。また不法滞在の母親がアメリカで子どもを生めば自動的に子どもはアメリカの市民権を得る。高校卒業以降、カヨーテといって、メキシコの国境線を不法に越えてアメリカに入国する人を手助けする仕事をしていたという。私の哲学の先生は今、国境線の近くに山小屋を持っている。私はそこに4度ほど泊まったことがあるが、夜中に犬が吠えていた。先生は言っていた。「国境線を越したメキシコ人がこのあたりを通っているためだ」。アルハンドラはこのような山のところで不法入国したメキシコ人をピックアップしロスアンゼルスなどに運んでいたのだ。不法入国する人もそれを手助けする人も罪の意識はない。アメリカで働けばメキシコと比べれば高い賃金が貰え、それをメキシコに仕送りしている人が多くいる。相当な数の不法入国者がいるはず。アメリカ政府もそれを承知している。時にはそのような人に永住権を与える法律を作ることさえある。北朝鮮のスパイが日本に上陸するというようなこととはニュアンスが全く違う。私の知り合いで日本の大手のテレビ局のカメラマンをしていた人がいる。彼は報道番組で国境付近の様子を取材した。メキシコ、アメリカを自由に往来するのが実態なのに、番組では緊張溢れる国境線として編集されていたという。私もティワナのメキシコ側の国境付近を先生と探索したことがあったが、夕方近くには国境の壁の近くに多くのメキシコ人がたむろしていた。先生の話によると、「夜、国境線を越すために待っている人たち」という。
   不法入国の事情について長く書きすぎた。それはアルハンドラがこちらの感覚ではそれほど悪いことをしていたのではないことを強調するためである。確かに、彼女のやっていたことは不法であった。捕まって刑務所にも入ってもいる。ところが、このような犯罪歴(?)があるアルハンドラが昨年市民権を得ている。ただアメリカ政府は彼女の過去の犯罪歴を考慮して、普通の人より市民権を与えるのに時間をかけている。しかし、結果としてもらえたのであるから、アメリカ政府の対処の仕方はおおらかと言えるであろう。障害事件を起こしたとか、他に法律に違反するようなことはしていないので、結果として市民権がもらえたのである。
   私のテナントとして家賃を滞納することもないし、正直な人であると判断できる。興味のあるのは、二番目の主人の間に出来た子供たち(3人)がモルモン信者であることだ。アメリカに来て、モルモン教の教会に行ったことがあるが、この宗教の信者は一般的に道徳性が高い。酒、タバコなどを今も禁じていると思うが、面白い逸話がある。ある時、三男のマイク(中学生)が目を真っ赤にして泣いていた。「どうしたのだ」と尋ねると、「お母さんがタバコを吸っている」というのである。いつも、子どもたちから監視されているアルハンドラ(彼女はカソリック信者)は、隠れていつもタバコを吸っている。アルハンドラにとってタバコの監視は困るだろうが、このような子供たちを非常に誇りに思っている。一番目の夫に出来た子どもたちは、若くてまだ未熟なときに生んだ子ども、あまり世話も出来ず長男を死なせるようなことがあった。前の子ども(もう成人している)にすまない気持ちを今の子どもに深い愛情を注いでいる。この3人は成績もよいし、マナーがよい。特に長男のエルビス(高校生)は私のコンピュータが上手く作動しないときは、嫌な顔ひとつせずすぐに直してくれる。アルハンドラもすぐに直してくれる。私が2年前にインターネットを始め、その2ヶ月後にブログを開設し、何とか記事を送り続けていけるのは、この母子のおかげなのである。
  話が大分横にそれた。軌道を修正しなければならない。

  相手の保険会社からの連絡がなかなかこない。それは前述したように警察の対応が遅く、相手側の保険会社に事故の報告がなされなかったためである。そこで、アルハンドラは私をハイウエイ・パトロールのオフィスに連れていった。事故の報告書を手にいれるためである。事故の当事者であり、事故ID番号を知っているので、事故報告書を得る権利がある。10ドル手数料は取られたが。相手側の保険会社、相手の名前、住所、電話番号が分かった。早速、相手側の保険会社に連絡し、事故報告書をファックスした。この段階で、警察からの報告書が届く時間を短縮できたのである。事故の事情から相手側のミスは明らかであるので、すぐに対処してくれた。先ず、事故の模様について、電話でインタビューされた、これは録音され証拠として残る。修理に対して、保険会社は全て補償する、そして、修理の間のレンタカーも保険会社が払うという(あとで送られてきた書類には、事故によって仕事が出来なかったとすると、一日当たり、30ドル支払うというのもあった)。ボディーショップ(車体の修理工場)の名前と住所だけ教えてくれときた。私のアパートの近くにボディーショップはあるが電話番号も住所も知らない。後でそれを教えるということで、相手側保険会社との第一段階が終わった。このことを、アルハンドラに伝えると、彼女の知っているボディー・ショップに連れて行ってくれた。事故車修理にかかる見積をさせるためである。保険会社はそこまで要求しなかったが、彼女の読みの速さである。先に見積書をファックスで送れば、段取りが早くなるという計算である。見積もりは3800ドルであった。5年前に買った値段である。それも車体を直すだけで、こんなに高くつくとは。直すのに3800ドル、直している間のレンタカーの費用も考えると、きっと賠償金は少なくとも5000ドル以上はくれるだろうと思った。「とらぬ狸の皮算用」であった。
つづく