チベット大虐殺と朝日新聞#14

チベット大虐殺と朝日新聞#14
第八章  日本が赤旗に侵略される日
      〜長野「聖火リレー」レポート〜
平成20年4月26日、午前零時、著者岩田温は東京を出発した。行き先は長野、「聖火リレー」の取材のためである。長野到着、午前3時過ぎ。経費節約のため、ホテル宿泊をせずファミリーレストランで夜の開けるのを待った。駐車場すべて詰まっている。少ししてから駐車できた。レストランに入るも、満席で30分ほどしてようやく席が取れた。周りを見渡すと、殆どが日本語を話していない。まるで北京か上海の店かと錯覚をおこすほど。休憩をとろうとしても、興奮して騒いでいる中国人がうるさくて眠れない。トイレに入った。トイレの洗面台の所で、シャンプーをつけた怪しげな中年中国人男性が、一心不乱に髪を洗っている。周りは水浸し。他人がいることなど一向にかまう気配もない。その男は、ただひたすらに髪を洗い続けていた。
   夜が明け始めたのは5時過ぎ、店内が騒然としてきた。外を見ると夥(おびただ)しい数の機動隊員が出動していた。外に出ると、そこは北京であった。店内から見えていた夥しい数の機動隊も、そこでは単なる色を添える程度の青色でしかなかった。街中が赤、赤、赤の一色で埋め尽くされていた。道行く人は、ほとんどが大小の「五星紅旗中共の国旗)」を手にし、狂ったかのように振り回していた。出発地点の方に向かって歩くと、中国人がぎっしり整列している。全員が赤いTシャツを着て国旗を振り回し、中には顔に中国国旗をペインティングしているものもいる。中国人を乗せたバスが到着するたびに大歓声があがり、沿道の中国人が国旗を振り回して歓迎する。バスの中の中国人もまた、それに応える。マスコミの人間が申し訳程度にいるだけで、一般市民はほとんどいない。どこからともなく歌が始まった。全員が声をあわせて合唱する。どことなく勇ましい歌である。恍惚としながら歌い続ける。彼らの表情は、全体主義国家の国民に特有の表情、カルト宗教の信者が法悦に浸るかのような、あの表情である。近くにいた中国人に何の歌かと尋ねると、案の定、中共の国歌であった。
  中共の国歌は正式名称は「義勇軍行進歌」。軍歌である。1935年の抗日映画「風雲児女(風の中の若者たち)」の主題歌であった。この映画の内容は、主人公たちが「日本の侵略」に対して、民族を守るためにゲリラとして戦うというものである。
  「いざ立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人びとよ!
   我らが血肉を築こう新たな長城を!
   中華民族に最大の危機せまる
   一人ひとりが最後に雄叫びをあげる時だ
   起て!起て!起て!
   もろびと心を一つに、
   敵の砲火をついて進め!
   敵の砲火をついて進め!
   進め!進め!進め!     」
 
  「敵」という言葉は勿論「日本」を指す。ここで、中共の国旗についても説明する。「五星紅旗」のデザインであるが、長方形の紅地の左上方に星が5つある。一つの大きな星と4つの小さい星である。一般に大きな星は中国共産党と人民を表し、4つの小さな星は労働者、農民、知識階級、愛国的資本家を指しているといわれる。だが、この国旗にはさらに侵略主義的意味合いが込められている。すなわち、大きな星が漢民族、4つの小さな星がモンゴル族チベット族ウイグル族満州族を表している。中華思想を露骨に表現した侵略主義的な国旗なのだ。
  著者は近くにいた留学生とおぼしき中国人に取材を始めた。
「どこから来たの」
「九州」
「ずいぶん遠くかからだね。バス?時間もお金も高かったでしょ」
「昨日の6時に出たから疲れた。お金かかったけど来て良かったヨ」
「ああそうなんだ、自腹なの?」
「そうだよ、バイトして貯めた」
  見え透いた嘘だが、彼らは実に堂々と嘘をつく。後に明らかとなったが、中国学生は、一人2千円の自己負担で、後は全て中共大使館が負担したのである。
  著者はインタビューをつづける。そこで分かったことは、留学生は、全てが大学ごとにまとめられ、各集団ごとにメガホンを持ったリーダーとおぼしき人間がいた。
 「チベット問題についてどう思うの?」
「なんであんな馬鹿なことをやっているんだよって感じ」(東大留学生)
「平和なオリンピックを邪魔しようとしているのが許せない」(留学生・大学名不明)
「国家の平和を乱そうとするの、おかしいよ」(九州大学留学生)
ダライ・ラマに騙されてかわいそう」(20代・会社員)
  著者がいろいろな人に声をかけていると、メガホンを持ったリーダー格の男が、著者のほうに向かって大声で何かを喚いた。その声を合図に、誰も著者の話に応じなくなった。「気をつけろ。あいつはスパイだ」とでも言ったのだろう。
  信州大学の近くで、過激派風の男に声をかけた。
ダライ・ラマって嘘つきなのですか?」そうすると信州大学の壁によじ登り、大きな横断幕を取り付けていた中年の男が応えた。
「あいつ、うそつきダヨ。チベット、昔人権なかった。人民は奴隷たよ
(だよ)」
  留学生の流暢な日本語に比べるト、タドタドしいカタコトの日本語だが、その興奮の様子は、留学生の比ではない。彼によれば、
ダライ・ラマは稀代の嘘つきである。実際に人権を抑圧していたのは、中共ではなくダライ・ラマに他ならないのだ。人民を搾取し、暴利をむさぼっていたダライ・ラマから人民を解放したのは、人民解放軍なのだ。人民を解放し、近代化を実現した。道路も鉄道もなかったチベットを発展させたのは全て中共なのだ。何故、日本人はダライ・ラマの陰謀に気づかないのか。」
   中共プロパガンダを担う「人民日報」では、5月29日、ダライ・ラマが英国、ドイツなどを訪問し、チベットの「文化的虐殺」、「人権侵害」などの実態を訴えたことに対して、次のような悪罵を投げつけている。
「『人権への無関心』を幾度となく口にするダライは、かつて自分が統治していたあの政教一致、封建農奴制の上に立った旧西蔵チベット)が極めて残酷であり、人口の90%以上を占める農奴には最低限の生存権さえ保障されておらず、西蔵チベット)史上において誰もが認める人権の暗黒期だったことを忘れたのだろうか。ダライが画策・扇動した『三・一四』暴力事件は各民族からなる住民の生存権、財産権、発展権を破壊し、その人権を踏みにじった。人権問題について、悪名を歴史に記録され、いまでもデマ三昧のダライが、何の資格があっていわゆる『中国の人権問題』を『証言』するのか?また、どのような『道徳的権威』から中国の人権事業を非難するのか」
(「人民日報」2008年5月29日)
  長野で絶叫した中年中国人と全く同じである。
<日本に住んでいる中共からやってきた留学生、会社員に、これだけ、中共政府や手先である人民日報と全く同じコメントをするということは、論理的に言って二つのことしか考えられない。一つは中共政府の言っていることは全くの真理であるので、真理であるから、別に政府が圧力をかけなくても、中共政府に所属している人民はたとえ外国である日本にいてもその真理を話しているということ。もう一つは、その逆で、中共政府の言っていることは全くの嘘で馬鹿な人民はその嘘にだまされているか、騙されていることは分かっていても、政府の言うようにしないと生存できないので、今のところ騙されたふりをしているだけである。この二つのどちらが正しいか、読者は自由に選択なさればよい。>

つづく