ビルマ(ミャンマー)#34

ビルマミャンマー)#34
30)一緒にお布施をする人は来世も共に生まれ変わるといわれる。また仲の良くないもの同志で行うと、お布施の功徳が十分得られないという。他者に対する手助けは、相互にそれをやりとりするという世俗的動機だけでなく、功徳を積むための行為でもある。そうする功徳が来世の幸せを決める。ビルマでの一方的な働きがけや過剰な親切に面食らうことがあるが、ビルマ社会における利他主義は、ある面で利己主義と裏腹にあるとも言える。
31)結婚の時に男子へ与えられる分も考慮して、男女、長幼を問わず、子供たちの間で均分に相続される。
32)「家」やそれに属する資産は、世代を超えて継承されるわけではない。苗字のないことが示すように、ビルマ人の家族は、個人と、その一次的な結びつきである夫婦が基本となっている。
33)有力者は互いに威信と力を競い合う。それを示す手段の一つは、さまざまな仏教儀礼を主宰することである。得度式やパゴダへの寄進儀礼など、大きな規模でおこない、たくさんの布施をし、人々にご馳走をふるまう。このことで、多くの人々を巻き込んで、個人的関係を強めかつ広げると共に、その力を誇示する。そして熱心な仏教徒であって、前世に多くの徳を積み、持って生まれた「カン(運、業)」が良いから大きな寄進が出来ると人々に受け止められる。それは何よりも指導者や支配者であるための大切な要件である。
34)日本では結婚した場合、嫁に「行く」「やる」、妻を「娶(めと)る」「迎える」というように、女性が実家から婚家へ移動する形で表現されるが、ビルマでは、「夫を取る(ヤウチャー・ユーデー)」「妻を取る(メインマ・ユーデー)」という双方の側が同じ動詞を用い、婚姻に対して男女は等しい立場で臨む。
35)一年に一回、わりとのんびりと稲を作り、乾季の農閑期には薪取りや家の修理をしたり、後はお寺参りや祭り、あるいは昼寝とおしゃべりですごすというデルタ農民の生活が急速に変わろうとしている。乾季水稲作の導入がその原因である。
36)仏教徒にとって結婚は完全に世俗的なものであり、宗教とは何ら関係ない。上座部仏教国の僧侶は、誰一人として結婚の儀式に関与しない。
37)かつて一人のビルマ人仏教画家が言った言葉がある。「仏の優美さは表現し得ず、女性の美しさで代用している」と。
38)ビルマの今の軍政は1988年に始まった。その前は軍政だが、名はミャンマー社会主義党の政権であった。世界が民主化民主化と一番騒ぎたてたのは1988年後である。現在のミャンマー軍の若い大佐たちはロシアでロシア軍の学校や大学などで軍の勉強などをしている。

ビルマの女性のブログから、以下のものを載せる。かつて記載したものと、重なりもあるが、文脈を尊重する意味でもう一度載せる>
ビルマ軍政の特質: ほかの軍政とどこが違うのか?
根本 敬(上智大学国語学部教授)

「政治家」になれない軍人たち
21世紀に入って8年もたつというのに、世界にはいまだ軍事政権に統治されている国がいくつかある。民主化が進んだはずの東南アジアでも、11の主権国家のうち、人口5000万人を数えるビルマミャンマー)は、1988年以来20年間、軍事政権下にある。それ以前の26年間も、「ビルマ社会主義」という別の名前のつく体制だったとはいえ、実際には軍が政権を支えていたので、それを含めれば実に46年以上にわたる軍政である。
ここで注意したいのは、ビルマの軍政がほかの国の軍政と性格が大きく異なるということである。軍政とは通常、「軍服を着た政治家による独裁」として特徴づけられる。すなわち、軍人ではあるが、同時に「政治家」でもある人々によって担われているのが通常の軍政なのである。たとえば、昨年、民政に回復したパキスタンやタイの軍政がそうであり、また1970年代から80年代にかけて数多く存在した中南米の反共軍事政権などもこの例にあたる。
彼らは「軍とは本来、国防にだけ専念すべき集団である」という認識を持ち、国家が崩壊や分裂の危機に直面したときにだけ、やむを得ず全権を掌握し、暫定的に統治をおこなうという論理で動いている。その際、国家危機の元凶と判断した「敵」(冷戦期なら共産主義者、現代ではイスラム原理主義活動家、タイではタクシンという特定の政治家など)に対して徹底的な封じ込めをはかり、そこでは時に拷問や超法規的処刑にも躊躇しない。しかし、「敵」ではない一般国民とは、交渉や取引(バーゲニング)を通じて妥協し、彼らの中から軍政の支持基盤が形成されるようあらゆる努力をする。「敵」を倒すために、「敵」ではない国民を強制ではない政治的バーゲニングによって軍政の「味方」にしようとするのである。彼らはまた「いずれ民政に戻さないといけない」と考え、たとえ渋々であっても民政移管に向けた準備をすすめる。
一方、ビルマの軍政(国家平和発展評議会SPDC)はこうした通常の軍政とは根本的に異なる。彼らは「軍服を着た戦闘的軍人」そのものであり「軍服を着た政治家」ではない。「軍は国防に専念すべき」という意識をもともと持たず、政治的革命を推進する軍こそが崇高であると信じている。よって、政治に介入することに何らの抵抗感も感じないどころか、先進国に一般的な中立で政治と関わらない軍のあり方のほうを批判的に見る。常に自分たちだけがビルマを牽引する唯一の正しい存在であるという自負心を持つ彼らは、政党は党利党略に走り、国民はそうした政党にだまされやすい存在なのだとみなす。
 彼らは政治に特有の交渉や取引、妥協を敗北ととらえる。「敵」が打倒対象であるという点は通常の軍政と変わりないが、「味方」になりうる人々に対しても強制と命令を軸にして動かそうとする。交渉や取引で妥協して支持を獲得し、国民の中に支持基盤をつくろうとはしない。そういうやり方は彼らにとって「敗北」以外のなにものでもない。ビルマには「連邦連帯発展協会(USDA)」という会員数2000万(自称)を誇る軍政の御用団体があるが、人口5000万人の国に2000万人の会員という非現実的な数字が物語るように、この団体は軍の強制で結成されたものにすぎず、真の意味での支持基盤とはいえない。ビルマ軍政は結果的に国民全員を「敵」にまわしてしまっているといえる。
 ビルマ軍政はまた、政治を民政に戻すべきだとは考えていない。民主化運動を武力でおしつぶした1988年から数えて20年、もっと遡ればクーデターで議会制民主主義を崩壊させた1962年から46年間、軍による政権はつづいており、その異常な長さは彼らが民政に戻す気を持たず、軍による政権維持を当然視していることを証明しているといえよう。本年5月、サイクロン被災者が240万人もいる状況下で、新憲法草案の承認を目指す国民投票を強行した(投票率98%、賛成率92%という異常な数字を軍政は発表)。その新憲法の中身も、現在の軍事政権による体制を「合法化」するに等しい内容で、本当の意味での民政移管を目指したものとはとうてい言えない。

憲法制定は軍政の「合法」化を目指したもの  
 新憲法が内包する深刻な問題点を箇条書きで示すと次のようになる。
?全般的に軍がビルマにおいて超越的存在であることを憲法によって認めさせようとしている
?2院制を採用、両院とも25%の議席は国防大臣が指名する仕組みになっている(軍人議員が4分の1を占める偏った議会となる)
?憲法改正には両院の75%以上の賛成が必要である(軍人議員の同意がないと改正は実質不可能)
?大統領と副大統領2人(計3人)は議員から互選、1名は軍関係者でないといけない。また、国防大臣、内務大臣、国境担当大臣は大統領ではなく国軍最高司令官が任命する規定がある(これにより、軍が行政の中枢をコントロールする体制となる)
つづく